OTノート

【作業療法】学び直しノート『 ひとと作業・作業活動[新版]』 

 

なんちき
なんちき
作業療法学び直し第二弾♪

前回、「作業療法の世界」を通して、作業療法の歴史、パイオニア作業療法士・鎌倉矩子氏から臨床家としての姿勢を学びました。

 

【作業療法】学び直しノート『作業療法の世界』から【作業療法】学び直しノートとして、臨床の中で助けられた作業療法を知る、考える書籍を紹介していきます。第1回目は初版2001年、鎌倉矩子氏による「作業療法の世界/作業療法を知り考えたい人のために」です。...

 

今回は、作業療法の精神科領域を牽引してこられた、山根寛氏の著書

『ひとと作業・作業活動 作業の知をとき技を育む[新版]』を通して、「ひとと作業」について、丁寧に言葉にし、実践してこられた軌跡を学んでいきたいと思います。

 

日本の作業療法、大切な原点がここにある

 

【ひとと作業・作業活動】をことばにする試み

新版プロローグより

作業をもちいる療法は、ひとが失い、奪われた身体、生活や社会とのかかわりを取りもどし、生活をふたたび建てなおすために、日々のいとなみに必要な「生活行為の再体験」の場と、病いを忘れひとときの安らぎをもたらす「良質な休息」の場をつくる。ひとは、その場で安らぎを取り戻し、作業を通して自己と向き合い、身体が「わが(思う)まま」に動いてくれるかどうかを確かめる。そして「ともにある身体」として確かめられ、リアルな存在、意味ある「からだ」として取り戻した身体により、生活の回復、再建がなされる。

 

✔「ひとと作業」との関係をことばにした作業療法士であり詩人の書

著者・山根寛氏(1949年ー)は、1972年広島大学工学部を卒業後、船の設計の傍ら病いや障害があっても街で暮らす運動「土の会」活動に従事。1982年に作業療法資格を取得され精神系総合病院勤務後、教員を務めながら地域支援に携わってこられました。

ひとのくらし、いとなみ、そのあまりにも日常的で、豊な内容の中にある「作業療法の基礎」を誰にでもわかる「ことば」にすること、日本の作業療法の歩む「道」を照らしてこられた方。

「作業療法の詩(うた)」「作業療法の詩・ふたたび」の2冊の詩集を出版しておられ、本書籍内で、いくつか紹介されています。

作業をもちいた治療や援助とは何か、本書からの学びを記録していきます。

1章「作業とは」/2章「ひとと作業」ことばの整理から

1章に入る前、プロローグとして[ミツコ80歳春]「今日はええ天気よおとうさん」と、亡き夫に語りかける、80歳の独居女性の言葉が、その背景にある暮らし、生活史とともに紹介されています。

【新版】では、[ミツコ90歳初秋] 「どうしたらええかねぇ、おとうさん」という、10年後のミツコさんの言葉が、米寿を迎えたころから物忘れが増えてきた背景とともに加えられています。

ひとりの人生の中に、暮らしの中に、ひとと作業、作業のフィロソフィー(哲学)がつまっています。

作業のフィロソフィー

まだミツコが元気だった時分は「神棚の榊の水を替え、部屋の掃除をし、庭の草花に水を撒く」この毎日習慣として繰り返されるいとなみ(生活行為)を、意識することはあっても、どのようにそれができるのか、身体の運動や動作として意識して実行されることはほとんどなかったであろう・・・

米寿を迎えるころから、「どうしてじゃろうねぇ。あれもこれもできんようになって」と、ミツコは今までできていたことができなくなったことを悔やむようになった・・・

なぜそのいとなみ(生活行為)に支障が生じたのか、どのように工夫すればよいのか、それを見極める目(OT Sence)を養うことが、ひとの生活行為をもちいて生活の障害にかかわり生活の支援をする者にとって重要な課題である

ひとの平凡な日々のくらしのいとなみ(生活行為)を治療や援助の手だてとする者として、ひとにとって作業とは何かを鳥瞰することから「ひとと作業・作業活動新盤」の書を紐解くことにする。

 

なんちき
なんちき
この事例の中に、作業療法の核心がつまっています。今、目の前にいる対象者さんの語りにあらためて耳をすませたくなる!

1章「作業とは」注目のポイント

●occupaitionの語源
(本書p.9)

occupyには「占有する」「使用する」「〈時間〉を費やす」「〈場所〉を占める」「夢中にさせる」「従事する」などの意味がある。

ひとがよりその人らしくあるために、物や時間、場所などあらゆるものを、精神的・物理的に占め費やすこと。ひととしてあるべき場所にあるがままに収まることを意味している。

●生活行為ー目的と意味のある作業
(本書p.16-17)

ひとのくらし(生活)や生(一生)は「いきる・くらす」「はたらく・はたす」「あそぶ・たのしむ」という、生活の維持、仕事と役割、遊びと余暇に関連するさまざまな生活行為によって構成されている。

 

なんちき
なんちき
2018年5月に作業療法の定義は全面改定され、「作業とは、対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す」と明示されました。 

2章「ひとと作業」注目のポイント

●ライフサイクルと作業活動の関係
(本書p.38-39)

ひとはライフサイクルのそれぞれの段階において、その時期に特有な発達段階をもっている。その発達段階に応じた役割を果たす作業が、ひとの障害を構成するともいえる。

必要な時期に適切な体験・学友の機会を得られなかった者の比率が増えることは、文化の崩壊を意味する。文化は遺伝しない。見て、触れて、真似て、身体から身体を通して学び引き継がれるものである。

●ヒトの脳と作業/脳のしくみと作業
(本書p.48-49)

系統発生的に古い脳のもつ本能的な力を新しい脳が統制している。

完成するのに20年以上もかかる未熟な脳のまま誕生せざるをえない宿命をもって生まれる。それが脳の可塑性cerebral plasticityで大いなる学習の可能性の代価なのだろう。

●こころのしくみと作業
(本書p.72)

主観的な「わたしが…と感じる」「わたしが…と思う」というこころは、作業による経験と深く関連する。経験する能力が心の発達やはたらきにとって必要条件であり、その経験の基盤は作業にともなう身体性にある。

なんちき
なんちき
文化は遺伝しない(*_*)着物を着る機会や手仕事の機会も 減りました。
リンゴの皮、上手に剥くことができますか?

3章「作業の知」4章「作業と生活機能」5章「作業分析」

✔作業の知/作業のクオリア(本質としての意味・機能)…古代ギリシアから

作業をすることは、自然のもっとも優れた医師であり、
それが人間の幸福についての条件である
(Galenギリシア 130~201AD)

3章「作業の知」注目ポイント

●作業がアフォード(afford)するもの
(本書p.85-86)

作業そのものとその過程や結果がもつ意味・特性、作業遂行がひとに求める心身の諸機能、作業遂行により心身に生じること、そしてひととひとが作業を通して体験を共有するときにうまれるもの、

それらすべてが「道具として」の作業がアフォードしている作業のクオリアである。

●作業の力とは

自らの身体性に裏付けられた確かなイメージとして、感覚として、自分のなかで組み立てられるものである。「作業の力」をどうもちいるか、それが作業を治療や援助にもちいる者の、OTセンス、臨床の力である。

●作業がつくる場の力
(本書p.107)

作業によって場が生まれる。その作業の目的や意味、作業を行うために必要な環境は、作業遂行がひとに求める機能や役割などにより、ある意味を持った場(トポス)が生まれる。

作業によって生まれた場が、その場を利用する一人ひとりにさまざまな心理的作用を引き起こす。作業がつくる場の力である。

なんちき
なんちき
水や空気が意識されないように、作業はあまりにもひとの日常の生活にかかわりが深い。

意識されずに行われる作業を意図して用いるのが作業療法

作業療法は科学の知が置き去りにした関係の相互性、臨床知の実践

4章「作業と生活機能」注目ポイント

●国際生活機能分類(ICF)との関係を整理!

5章「作業を分析する」注目ポイント

●作業そのものの特性とひとと作業のかかわりを、社会・文化、人の整理、ひとの心理、生活、といった視点から分析する。

なんちき
なんちき
ここでプロローグのミツコさんが再度登場します。
「作業分析」の視点こそ作業療法士ならでは!あらためて学び直し、磨きたい!

6章「作業の技」/作業をもちいた治療や援助の成否を決める

【作業の利用】

●目的として作業をもちいる(occupation as ends)
●手段として作業をもちいる(occupation as means)
●作業がつくる場をもちいる(occupation as environment)

 6章「作業の技」注目ポイント

●作業の選択
(本書p.197)

作業の遂行にあたっては、選択された作業をそのまま使用するのではなく、対象者とその作業の使用意図に適したようにいくらかの適応・修正(adaptation)や段階づけ(grading)をおこなうことが必要になる。

●社会脳と作業療法
(本書p.207-208)

どこで、だれと、どのような環境において、その状況に応じた生活行為ができるかどうかが重要な視点となる。

作業療法の対象は、近代医学が置き去りにした対象の主観、生命の直観を視野に入れた、人間の健康と生活そのものである。

なんちき
なんちき
社会環境に適応するための文脈依存的な「こころのはたらき」は社会神経科学などと称される新しい脳科学の研究領域です。

7章「技を育む」作業療法・臨床のコツ

なんちき
なんちき
著者の臨床経験から導かれた「臨床のコツ」が丁寧に言語化されています!

7章「技を育む」注目ポイント

●作業が活きる条件
(本書p.212-217)

好奇心・興味・関心/意志・意欲ー主体性と能動性

ひとの内的環境(睡眠や栄養補給・休養)が十分に満たされ、心身ともにコンディションが整っているかどうか

行動をともなう「ああ、そうか」体験

よいパートナー:他者の評価と知覚のカテゴリー化
特に作業療法士自身の治療的利用…対象者が作業により体験したことの表象形成=知覚のカテゴリー化を助けることばを適切にかける「よいパートナー」の役割が求められる。

好ましい環境と成功体験‐失敗させないことより失敗に終わらせないこと

●作業で伝えるー「つたえ」「つたわり」を活かすコツ
(本書p.218-227)

言い方、タイミング、非言語情報、ことばを活かすこと

●かかわりの技を育む
(本書p.228-232)

そばに寄り添う者が五官を開き、外界からの刺激に安心して身をゆだねることができるようなはたらきかけをすることが必要である。

相手に合わせたオリエンテーション
作業療法は本人がその気になって主体的に取りくむことが前提。

観察と面接、評価ーみる・きく・しる
事実は一つ、内的現実は人の数だけある

✔生活の自律(自立)と適応、生活の再建を支援する作業療法

✔具体的なひとのくらし(生活)を構成する作業をもちいて、健康な自我にはたらきかけることが作業療法の特性であり、主要な役割

✔何にふれ、何にふれないか、今ふれるか、後でふれるかが、作業を共におこなうことをかかわりとする作業療法の効果を大きく左右する

なんちき
なんちき
何もできることがないように思えるときでも、共に居ることはできます。そして、共に居ることを活かすことができるのかが作業療法士に問われます。

「・・・がしたい」という内発的動機がない場合にこそ

興味や関心をもって作業が選択できるような、またこれなら少し取り組んでみようという気持ちになるようなはたらきかけをすること。

それこそが作業療法士にとって重要な役割である。

考え・試し・振り返る…思考の過程が作業療法士を育む

なんちき
なんちき
最終章8章は「描く」という作業を通した著者の臨床思考過程を追いかけながら、「完成」が読者に託された未完の章。

 

✔「描く」ことの作業分析から著者の臨床思考過程を追体験できる貴重な記録

 

なんちきまとめ

●日常に豊かにとけこむ「作業」を言語化し治療・援助に用いるのが作業療法である
●「ひとと作業」生活行為の意味を誰よりも意識し実践を言葉にし扱うことが求められる
●その方にとっての作業の意味を知り、なぜを見極め、工夫を考える、その思考過程の中でOTセンスは育まれる

 

『作業療法とは何か、自分が体験した確からしさを「ことば」にすること』をライフワークとしてこられた著者の詩を最後に引用し結びにしたいと思います。

 

みち

ひとり あるいて/ふたり あるいて/できたみち

ちいさなみちが/ひとすじ ふたすじ/あつまって/おおきくなった

はじめ のっぱら/くさっぱら

 

なんちき
なんちき
このみちを作業療法士として学び続けながら歩いていきたいと思います。

 

最後まで読んでくださり、ありがとうございました☆