チャレンジ

「せんせい」に込められた3つの「毒」#3000文字チャレンジ

「せんせい」と呼ばれる仕事に憧れはありますか?

病院や介護施設で働くリハビリ技術職「療法士」は「せんせい」と呼ばれることのある仕事の一つです。

ただし、療法士にとっての「せんせい」には3つの毒があるという話をしたいと思います。

 

①「『せんせい』と呼ばんといてください。先生は〇〇先生(主治医)だけですよ^^」

②「『せんせい』って言わんといてくださいよ~。〇〇(筆者苗字)って呼んでください^^」

③「自分ら同士で『せんせい』と呼び合うのはやめよう。恥ずかしい(>_<)」

 

以上は、20数年作業療法士として医療現場、介護現場で働いてきて、幾度となく各方面でお願いしてきたことです。

 

①は患者さん、利用者さんにむけて。

 

患者さん、利用者さんには医療費、利用料の負担が発生しており、リハビリの効果を期待して療法士と向かいあっているという事実があります。

「せんせい」と呼んでいただくことによる「プラセボ効果」が必要な場合もあるので、頭から否定することはしません。

関係性の中で、「せんせい」とは呼ばずに名前で呼んでいただけるよう丁寧にお願いします。

医療保険、介護保険制度上は、「医師の指示のもと」療法士を名乗って(名称独占)働くことが許された職種です。

例えば、病気や障害について「治りますか」と聞かれた場合も、予後予測的なことについては、「主治医に聞いてください」と返さなければなりません。

「せんせい」と呼ばれるがまま、「あなたの手は元の通りに動くようにはなりません」と断言するようなことを言うことは禁じられています。

あくまでも療法士ができるのは、心身機能、生活行為、社会参加を、環境の工夫も含めてサポートし、今より「よくなる」こと、病気や障がいと付き合いながらの生活への適応を支援することです。

患者さんが療法士を「せんせい」と呼んでいる間は、受け身のまま。

「治してもらうこと」「元通りになること」を期待して身をゆだねる上下の関係になってしまいます。

脳卒中で倒れても、大腿骨を骨折しても、生活は続きます。

退院後の生活を考えた時、ご本人自身がその気になった時に、リハビリテーションがはじまります。

「家に帰りたい」「もう一回〇〇がしたい」「〇〇に行きたい」という欲求、能動性が原動力。

主役は患者さんで、一人ひとり違う欲求、思いを形にしていくのが過程がリハビリテーション。

最も信頼のおけるリハビリパートナーとして、上下ではなく並列な立場で、もう一回したい生活に向かって一緒に歩くのが療法士の仕事です。

診療報酬・介護報酬として金銭が発生する関係であり、その責任を全うすることは当然。

その上で、上下の関係ではリハビリテーションは進まない。

 

「せんせい」と呼ばれているうちは、療法士は患者さんの「毒」になる。

 

次、②は同業他職種に対してです。

 

チームで働く看護師さん、介護士さんに名前ではなく「せんせい」と呼ばれている間は、「認めてもらえていない」修行期間である。

これは間違いない。

③で詳しく言いますが、おかしなことにこの国では、療法士同士で「せんせい」と呼び合う文化が根強くあります(気持ち悪い(゚д゚))

本来「せんせい」は医者だけで十分なヒエラルキー構造の中で、チーム内で唯一、療法士だけが「せんせい」と呼ばれることがあります。

「リスク管理がなってない(゚д゚)!」

「おむつパンパンにしたまま何が歩行練習やねん(゚д゚)!」

「私の方が確実に介助上手い(-"-)。何?あの移し方(ベッドから車椅子への乗り移りのこと)何ならってきたん?」

もう、幻聴レベルで次々と聞こえてきます(*'▽')

実際、入院・療養生活にとって大切なこと「基本のき」が何にもわかっていない、社会経験も乏しい新卒療法士はあたりまえに何もできません。

そのうえで、療法士は、診療報酬上「20分」単位でマンツーマン対応が求められる仕事のため、チームで動く看護師さん、介護士さんの仕事の流れを乱しがちです。

少ない人員体制に加えて分刻みのタイムスケージュールで動く病棟、施設の場合、流れが療法士に寸断されるストレスは大きい。

そんな中で、患者さんの「いいタイミング」でトイレにお連れしたり、場合によっては、オムツの交換をさせてもらったりすると、喜ばれます(このあたりは匙加減が必要。本業に食い込んでくるジレンマと裏腹ではあります)。

「生活」のリハビリを専門と自任する作業療法士ならば、したくもないタイミングで「トイレの練習」って何ですか?となるわけで、患者さんがちょうど〇〇したい!タイミングが合えばむしろラッキー(*´▽`*)と歓喜せねばなりません。

繰り返しますが・・・

確実に、ベテランの看護師さん、介護士さんは見抜いてます。

この療法士はできるかどうか、少なくとも、患者さん、利用者さんの役に立っているかどうかを120%見抜いてます。

「せんせい」と呼ばれているうちは、認められていないのと同義。

名前を憶えてもらった時にはじめて、チームの一員になれたと安堵する。

※看護師さん、介護士さんからすれば、リハビリ病院だと何十人、時に100人単位の療法士の名前を覚えるのは大変なわけで、「せんせい」と呼んでおいた方が楽だという面もあるかと思います。

在宅サービス(通所や訪問リハビリ)での他職種とのかかわりでもこの原理は同じ。

看護師さん、介護士さんのするどい視線に、毎日へとへとになって、もまれて、教えられながら、「せんせい」って言わんといてくださーい(T_T)と懇願しながら、療法士はだんだんと成長していきます。

※もちろん、世の中には「せんせい」と呼ばれることに一ミリの葛藤も感じさせない療法士は存在します(まあまあの比率かも('_'))。

 

他職種から呼ばれる「せんせい」には認めてへんで~という「毒」がある。

 

最後、③療法士同士で「せんせい」と呼び合うこと。

 

これが筆者的には一番解せません(-"-)

同業種の研修会、学会の場では特に、互いを良く知らないからこそ、空気を読んで「せんせい」と呼んでおく方が無難だという文化が強烈にあります(抗いがたい)。

もちろん、学会や研修会の場は、教えを乞いたい本当の「せんせい」がいますので、なんら矛盾のない場面ではあります。

一方で、一般病院、施設では、患者さんをその気にさせる意味で「せんせい」と致し方なく呼ぶことはあっても、職員同士で未だに「せんせい」と療法士同士で呼び合う文化がどのくらい残っているか、未調査ではありますが、現存しております。

患者さんに役に立つ療法士としての自覚を持たせる意味での踏み絵的位置づけなんでしょうか?

16年勤務した前職場では、中途採用の経験者ながら、部門開設メンバーだったこともあり、断固として「せんせい」と呼び合うのはなしに!と主張。

現在は「せんせい」って呼んでいたこと、そんな文化ありましたっけ?というレベルに至っています。

そもそも、療法士同士を「せんせい」と呼び合う文化はなぜ生まれたのか?

あくまでも「医師の指示のもと」ではありながらも、マンツーマンで患者さんと対面し、なにがしかを施す、現制度下「20分あたりいくら」と出来高報酬がつく職種です。

経営的観点で、「ドル箱」扱いされていた時代も少なからずあり、医師の診療行為の補助ながら、「治療」を施す者として、白衣を着て患者さんに関わる「せんせい」ということにして組織に位置付けられたのかもしれません。

このあたりの歴史的なことは、ちょっとググったくらいでは確からしいことは出てこず…。

ただし、診療報酬上のうまみも年々引き下げられ、同時に高齢化社会に備えて、療法士は大量に量産されており、2025年には需給バランスが完全に崩れると厚労省がデータ化するしまつです。

国策時代は、国立系の学校中心に3年制が主。医師の半分しか教育期間がなく、しかも「臨床実習」という実地実習に重きが置かれている「専門学校」。さっさと育成して各医療機関に着地させる期間がありました。

現在は国立系は大学に、専門学校も4年制での養成が推奨されており、私学などに行こうものなら、年間学費は150万~200万(>_<)

「働きがい」を求めて社会人から療法士になる道も大変人気で、何百万の貯金をはたいて、あるいは奨学金を借りて、晴れて療法士になったとて・・・

ハッキリ言ってその自己投資は重い(/_;)

医師年収の数分の1~10分の1、元々低い水準にある医療・介護業界の中でも、年々給与水準は下がっており、唯一の専売特許である「20分あたりいくら」の出来高報酬もカットの憂き目にあうことが予測されております。

「せんせい」と呼び合うことでその地位が守られるか?というと甚だ疑問。

もちろん、みんな大好き「エビデンス」、科学性が乏しいと言われているリハビリテーション業界でも、臨床研究をすすめ、効果のある知識・技術を世に出していくために日夜研究をすすめておられる「せんせい」方がおられます。

彼らは「せんせい」です。間違いない。

しかし、臨床現場で「せんせい」と呼び合うのはやめたい。

この点は、療法士としての責任逃れだ!お前は診療報酬をいただいている責任から逃げている!という意見も、もちろんあって賛否分かれるところかもしれません。

ただ、患者さん、利用者さんを主としたチームで働く場合にあっては、「せんせい」と呼び合う必要はないやんか。

先輩に対してもリスペクトを込めて「〇〇さん」でいいやんか。そう思います。

 

療法士同士を「せんせい」と呼び合うことには、勘違いを生む「毒」がある。

 

以上、「せんせい」お題の#3000文字チャレンジ!ひと思いに書いて、4000文字弱となりました!

先輩ブロガーさんたちの文章が、みんなおもしろくて、魅力的で一日読みふけって予習していたのですが…

「自分の中にあるものしか出てこない」けれど「思いのままに書くのは楽しい♪」ということがわかった#3000文字チャレンジでした(^^)

最後まで読んでくださり、ありがとうございました☆

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☆この記事は「#3000文字チャレンジ:無機質な活字にいのちを吹き込もう!」の第74回お題への練習チャレンジです。

毎週木曜日の11時にTwitter:3000文字チャレンジ公式アカウント@challenge3000 さんより新規お題発表があります!

下書きがたまる一方でどうにも筆(タイプ)がすすまないんです(T_T)というブロガーさん!

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