認知症は進行性であり、狭義の「治療」「回復」という意味でのリハビリテーション、機能訓練はなじみません。
また、介護現場で認知症を持つ対象者と日々対応しているのは、介護職、看護職、家族が中心。
残念ながら療法士の登場機会は限られています。
リハビリ病院で「認知症があるのでリハビリができません」という悲しい言葉を聞いた方もいると思います。
認知症にリハビリテーションは有効か?
療法士として、特に生活を見る専門職・作業療法士こそ認知症を持つ対象者、家族の役に立ちたい!リハビリテーションは確かに意味があると自信をもって関わりたい。
そう願う作業療法士のための作業療法士による「研究と現場をつなぐ書籍」が出ました!
OT必携!「Evidence Basedで考える 認知症リハビリテーション」のここがいい!紹介させていただきます!
この記事が役に立つ方
●認知症のリハビリテーションを根拠をもって実践したい療法士
●根拠のある認知症のリハビリテーションについて知りたい介護職やご家族
根拠に基づいた認知症リハビリテーション介入のために
<本書構成>
1)リハビリテーションに役立つ認知症の基礎知識
2)根拠に基づいた認知症のリハビリテーション評価
3)根拠に基づいた認知症のリハビリテーション介入
4)根拠に基づいた症例への評価・介入
ー時期別にみられる代表的認知症症例と評価・介入戦略の例
「Evidence Based」を共通ワードに、科学的に根拠が示された研究論文を引用しながら、現時点での最新の基礎知識に基づく評価・介入の適応と限界を示していく実践的な内容となっています。
認知症リハに役立つ基礎知識の整理
認知症リハビリテーションにおいては、エビデンスレベルの低さが指摘される現状がある中で、本書は、以下の点に注目することが提案されています。
●認知症のリハビリテーションは薬物治療と非薬物的介入を組み合わせた形であり、リハビリテーションは「非薬物的介入」のひとつ。
●非薬物的介入の対象となる領域は広いが、適切なアウトカム指標を用いることで、リハビリテーション介入の効果を示すことは十分に可能である。
●認知症の代表疾患、レビー小体型認知症・アルツハイマー型認知症・脳血管性認知症・前頭側頭葉変性症、それぞれのタイプ別の特徴を知り、アプローチ方法を変える。
●各評価や介入方法の適応と限界、アウトカムとの関連性を理解し、日々のリハビリテーション介入へと活用していく。
各論点、最新の知見をもとに簡潔にまとめられており、「知っているつもり」の知識整理も含めて、本書の肝である「評価・介入」へとスムーズに読み進めることができます。
また、①発症因子と②重症度別特徴について、近年、DSM-5では「mild NCD」として診断基準が定義された「MCI:軽度認知障害」に着目、重度認知症者の死亡率と予後予測から終末期を考える論点の提示もあり、必見です。
●mild NCD診断基準(抜粋)
「毎日の活動で認知低下が自立を阻害しない」が、書類管理や服薬管理などの複雑なIADLにおいては「以前より大きな努力や代償的方略、工夫が必要」である。
→リハビリテーション介入によって効果的な代償的方略や工夫を提案すべきことを示唆
●認知症終末期医療について
ADEPTチェックリストの紹介から、終末期の課題を胃ろうの是非を問うことに限定することなく、本人の生活の質をいかに最大限に高めるかからリハビリテーション方針を検討することの重要性を説く
根拠に基づいたリハビリテーション評価を知る
認知症における目標設定
目標とは、「成し遂げようとして設けた目当て、目印」と定義されている。われわれセラピストの場合、目標とはリハビリテーションゴールであり、「クライエントがリハビリテーションの結果として達成する将来の状態」といえる。また、理想的な目標とは、「適度な難度があり、具体的に表記され、本人にとって重要で自己決定がなされたもの」とされている。―Hirschmanらによれば、軽度から中等度のアルツハイマー型認知症の92%が治療の意思決定への参加を希望し、その家族の71%も、できるだけ本人を参加させたいと回答した。
~目標の有無は認知症発症に関連する~
Boyleらは、951人の高齢者に対して人生の目的の有無(Ryffの幸福心理尺度)を尋ね、7年後までフォローした。その結果、Ryffの尺度で高い点数だった高齢者は、低かった高齢者と比べて、アルツハイマー病の発祥リスクが半減(48%)したと報告している。同様に、軽度認知障害(mild cognitive impairment;MCI)や認知機能の低下のリスクも軽減している。
✔認知症者本人と家族の目標設定参加をいかに促すか
✔イラスト選択による目標設定「作業選択意思決定支援ソフト(ADOC)が有用
以上2点を出発点として、下記評価項目について、根拠となる研究成果に基づいて検査内容と評価ポイントを明らかにしつつ知識を整理することができます。
●認知機能,●ADL,●BPSD,●身体合併症,●言語症状,
●栄養,●感覚器,
●環境ー治療戦略としての物理的環境,
●活動の取り組みかた(engagement)の評価,●QOL
▷認知機能 チェックポイント
✔国際的にはMMSEが最も使用されているが、MCIや軽度認知症では、MoCA-JやACE-R,ADAS-J cogが推奨されている。
✔スクリーニング検査は、カットオフ値や総合点のみに着目するのではなく、項目(認知領域)の特徴をとらえることで、疾患特性や生活行動障害との関連を考察しやすい。
✔検査結果は、教育歴や職業歴、体調や緊張状態、日内変動など影響因子を確認したうえで判断すべきである。
☆中等度ー重度認知症者を対象とした認知機能検査
ー押さえておくべき検査(SIB,SCIRS,CTSD)
✔Cognitive Test for Severe Dementia(CTSD)とは…
この検査は、13項目で記憶、見当識、言語、死空間認知、行為、前頭葉機能、社会交流の7領域を評価できる。総得点は30点で、各設問の質問に対して被験者からの反応が得られなければ最大3回まで質問を繰り返す。実施時間は10分程度である。
重度認知症者における認知機能検査に関する研究
-Cognitive Test for Severe Dementiaの開発一
大阪府立大学大学院総合リハビリテーション研究科(田中寛之)
根拠に基づいた認知症リハビリテーション介入とは
後半、3章、4章で評価を踏まえた根拠に基づいた認知症リハビリテーション介入について、各介入の最新知見が明らかにされていきます。
認知症の治療・補足としての薬物療法
注目ポイントは、認知症の治療は「あくまで非薬物療法が優先」という点を確認しつつ、薬物療法の現在地について、最新知識をアップデートすることができる点です。
知っておくべき薬物療法のメリット/デメリット
抗認知症薬で認知症症状の進行抑制はするが、改善するという効果はなく、症状進行抑制は一時的である。
薬物療法による介入を検討する際には必ずそのメリットがデメリットを上回る場合にのみ行うべきである。
抗認知症薬は1999年ドネペジル、2011年にメマンチン、とリバスチグミン、ガランタミンが追加された。しかしこれらの薬剤は、「認知症症状の進行抑制」が保険収載上の効能・効果であり、認知症のBPSDの改善ではないことは十分に理解すべきである。
認知症の完治を期待し、ついに保険薬剤が登場した時は、打つ手なしに甘んじていた医療者にとって画期的なものとして受け入れられたのだと思います。
しかし、保険適応用量を丁寧に見極める投薬が求められ、全員に同用量を処方することは危険です。
正しい適応で認知症を「治せる」とおっしゃる認知症専門医も登場、共に働く医師に勉強していただけたらなぁと思うこともありました。
本書では、『認知症疾患診療ガイドライン2017』で明記されていることも踏まえ、あくまでも生活習慣などの基本的な関わりと非薬物療法を中心に据えること。
薬物療法は補足として、適切な組み合わせによる治療介入こそが質の高い認知症治療となると提言されています。
若年性認知症事例への訪問リハビリテーション介入に学ぶ
第4章では病院、施設、在宅場面で出会う事例を通した介入実践について学びを深めることができます。
中でも筆者が特に参考にしたいと感じた事例が、50代の若年性認知症の方への訪問リハビリテーション介入事例です。
若年性認知症については、映画「明日の記憶」や当事者の本が出版されるなど、度々注目され、地域により選択できるサービスに限界が多いことも事実。
職場や家庭での役割、活動性の高い時期の発症という特徴から、リハビリテーション職の役割が特に大きいと考えています。
まず、自宅環境と現状のご本人の状態を評価し、人とものとの適応環境を整えて、他サービスへの架け橋に訪問リハビリテーションは最適です。
どのように工夫し関わっていったのか、具体的事例を通して学ぶことのできる本書は、まさに研究と実践をつなぐ書となっています。
生活者こそが「認知症リハビリテーション」の実践者
・・・リハビリテーションの最大の対象は生活障害なのです。可能な限り、本人や家族が望む生活習慣、生活環境、生活行為の実現に向けて介入する必要がある ・・・
あくまでも生活者としての対象者が暮らす場=臨床と研究をつなぐための1冊としてまとめられた本書。
検査をするだけ、対象は治る人、機能訓練にのる人だけに限定する狭い臨床を乗り越える、医療と生活をつなぐ書となっています。
筆者は、2000年介護保険前夜に臨床に出てから、折に触れ「認知症」をもつ方と家族とのご縁を得て、悩み、学びながら今に至っています。
生活者としての強みは、暮らしを支える訪問介護スタッフなどの介護職にあるように思え、自身の無力に悩んだこともありました。
医療職の中でも作業療法士は、最も生活の場、介護の場に近い存在です。
作業療法士は医療と介護の架け橋になれる!
最後まで読んでくださり、ありがとうございました☆