OTノート

【精神科作業療法】主観的感覚と生きづらさに寄り添うからの学び

作業療法士としての原点、精神医療を学び直したいと、精神科特化型訪問看護ステーションに勤務してから10か月が経過しました。

訪問看護ステーションですから、管理者は全員看護師さんであり、日々の労働は「精神科訪問看護」として看護師さんと同じく現場に立っています。

中途採用者だけで構成される職場として、独自の教育制度が設けられており、当事業所で一からスタートのピカピカの新人として一から徹底的に学び直す姿勢を求められる職場におります。

精神科訪問看護とは何か

利用者主体の支援、自立とは何か

その中で、制度的には月の訪問が作業療法士だけではダメだったり、週4回目、5回目の特指示訪問(通常訪問は週3回が限度の中、必要に応じた医師の指示での頻回訪問)の場合は看護師訪問が原則であるなど、立場の低さがある中で、あえて作業療法士がいる意味は?

これは、誰かが答えてくれるものではなく、自分のなかで整理していく必要がある。

そこで、精神科作業療法とは何かを今一度学ぼうと手に取ったのが本書

『主観的感覚と生きづらさに寄り添う 精神科作業療法士が伝えたい臨床思考ケースブック』です。

なんちき
なんちき
前置きも、書籍名も長い!!

作業療法士であるまえに、この社会の一員として同時代を共に生きる一人の人間としてということを大切にしつつ、作業療法士と名乗って、利用者さんのまえに立つにあたって、よりどころとなるヒントを得たい。

無我夢中で駆け抜けてきた10か月の振り返りとしても、本書から得た学びをまとめておこうと思います。

【精神科作業療法】主観的生きづらさに寄り添うとは

まず自分自身が、どのようなことに生きづらさを感じているのか、それを知ることにより、もっと自身を(周囲の人を)愛すべき存在だと気づくことになる。

ここまで生きてきた自分を慈しみ、思いやること(self-compassion)、その経験が対象者に寄り添う感覚に大きな力を与えることになる。

『主観的感覚と生きづらさに寄り添う精神科作業療法士が伝えたい臨床思考ケースブック』序文より抜粋

精神科リハビリテーションの理念とは

対象者のwell-beingに貢献すること

作業療法の定義は人々の健康と幸福を促進することにあります。

対象者がより良く生きていける事、その人らしいよい感じ(=wellness)でいられることを目標に、生物学的視点、心理学的視点、社会学的視点など、多様なアセスメントから対象者と共に取り組んでいくことが作業療法の目的です。

その人らしいよい感じは、その人の主観的感覚に依拠します。

それでは、主観的感覚とはいったいなんなのか、本書第一章では主観的感覚とは何かが丁寧に言語化されています。

主観的感覚=その人の見方、感じ方、考え方

主観的感覚には、さまざまな要因が関連し、要因には癖や思考パターンなども含まれ、その人の経験にも大きく影響を受け、生活機能、背景因子が相互に関連します。

主観的感覚は、健康と幸福に大きく影響する。生活機能や健康に関する客観的状態と併せて、対象者の主観的感覚をアセスメントしていくことが重要です。

【主観的感覚4つの視点】

自尊感情(self-esteem):自己肯定感、自信、自己効力感、劣等感
価値(value):重要性、意味
満足感(satisfaction):必要とされている、不満なく満たされた感覚、自己不全感
動機付け(motivation):欲求、意欲、意味
なんちき
なんちき
「ワーカホリック」や「ヴィンテージジーンズ」収集家などの身近な事例をあげて、主観的感覚の影響について理解を深めることができます。

生きづらさはスペクトラムである

生きづらさは従来の「障害」という概念よりも、もっと広い意味を含有している。むしろ、障害よりも本人の』体験や主観的感覚によるところが大きい。

丁寧に生活歴を追っていくことによって、疾患の背景にある生きづらさの存在に気づくということがある。

作業療法は対象者の健康と幸福に寄与する職種である。文字通り生きづらさは健康と幸福のネガティブ因子であり、作業療法の標的とすべきものである。

人は連続性のある生き物であり、それぞれの人生を生きてきた結果、現在の状態として存在している。

その人のことを考える時、その人がどんな人生を歩んできたのかということを考えなくてはならない。

具体的には、父母はどんな人でどんな存在だったのか?どんな環境で育ったのか、どうすることを求められたのか?どうせざるをえなかったのか?どうしたかったのか?どうする手段を学んだのか?どんな経験を積んだのか?

ーその結果が、現在=生きづらさにつながっていることが多い。

『主観的感覚と生きづらさに寄り添う精神科作業療法士が伝えたい臨床思考ケースブック』第3章 生きづらさ 抜粋

【生きづらさの多様な根源】

なんちき
なんちき
コロナ禍の生きづらさは「災害・事故」に含まれ、それぞれの固有の生きづらさと複合的に絡み合って、我々もその影響を受けている状態にあると考えると理解が深まります。

ACE:逆境的小児期体験

逆境的小児期体験(adverse childhood experiences)とは、虐待、貧困、家族の東国、精神疾患、薬物乱用、家庭内暴力、離婚や別居による親の不在など家族の機能不全を含む、小児期のつらい体験のことです。

子ども時代の逆境的体験が多いほど、人は社会的、情動的、認知的な問題を抱える可能性が高まります。

その結果、喫煙、暴飲暴食、薬物依存などの危険な行動が多くなり、それが病気に罹患したり、自己で障害をもつ可能性を高め、犯罪の原因にもなると言われています。

なんちき
なんちき
利用者さんの生育歴にACEがあることを実感しています。そして、児童養護施設で出会った子どもたちにも。

事例集からの学びを臨床に活かす

第4章は、統合失調症のケース、依存症のケース、双極性障害のケースなど、それぞれの疾患名とそれぞれの事例が持つ主観的感覚と生きづらさに寄り添った作業療法士の支援例を追体験する形で紹介された事例集になっています。

臨床と本書を行き来することで、先人が多くの患者さんから学んだ事、得た経験から紡ぎだされた言葉、事例を通してた学びを活かしていきたい。

生きづらさをその人個人のせいだけにも、社会のせいだけにも、病気のせいだけにもしない。

その人らしく、いい感じで暮らしていけるよう、唯一無二の一回きりの人生を生きていてよかったと思えるように、

出会ってよかったと思ってもらえるよう関わりに活かして生きたいと思います。

最後までお付き合いくださりありがとうございました。