OTノート

【OT必携】高齢者のその人らしさを捉える作業療法「大切な作業の実現」

 

なんちき
なんちき
OT必携!臨床に役立つ本の紹介です!

筆者が臨床デビューした2000年前後は、介護保険の開始など制度変化を追いかけるように、日本の作業療法はパラダイムシフト・転換期にありました。

還元主義的パラダイムから「Occupation-Centered,”作業”を大切にする実践」へ

新しいパラダイムの定着を一般化する目的で、日本の2000年以降に作業療法士となった若い実践家により編纂され、2015年に出版されたのが本書!

高齢者のその人らしさを捉える作業療法 大切な作業の実現」です。

本書は、「高齢者」が表題となっていますが、「その人らしさ」を支援するとはどういうことかは全領域の作業療法士共通のテーマです。

なんちき
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”その人らしさ”とは何か?本書から得られる学びのポイントを紹介していきます!

【OT必携】その人らしさを捉える作業療法の教科書

本書 序 より抜粋

・・・機能の低下をくい止める、あるいは予防することだけを作業療法の役割と考えてしまえば、疾患別の作業療法と高齢期の作業療法の区別がつかなくなるのは当然だろう。

そして、高齢者には本人が長い年月をかけて積み重ねてきた唯一無二の作業ストーリーが存在する。同じ地区に生まれ、同じように農業に勤しんだ同年代の男性であっても、取り組んできた「作業」の意味まで全て同じであるということは決してない。つまり、高齢者が長年培ってきた力強い作業ストーリーは、「その人らしさ」そのものなのである。作業療法では、そのストーリーを引き出して共有し、大切な「作業」を実現することで、対象者の「その人らしさ」を取り戻す必要がある。

 

✔本書構成

Ⅰ.総論
1⃣ その人らしい作業の捉えかた
2⃣ 大切な作業を実現するための方法
Ⅱ.情報収集編
1⃣ その人の役割・生きがいを知る
2⃣ その人の生活習慣を知る
3⃣ その人の興味・関心を知る
4⃣ その人の価値を知る
5⃣ その人の「できる」と思う気持ちを知る
6⃣ その人を取り巻く環境を知る
7⃣ その人の生活のバランスを知る
8⃣ その人の生きてきたストーリーを知る
Ⅲ.実践編
1⃣ 生活習慣とバランスへのアプローチ
2⃣ 役割や生きがいへのアプローチ
3⃣ 興味・関心と価値観へのアプローチ
4⃣ 「できる」と思う気持ちへのアプローチ
5⃣ 取り巻く環境へのアプローチ
6⃣ 生きてきたストーリーへのアプローチ
7⃣ その人らしい施設生活へのアプローチ
8⃣ その人らしい在宅生活へのアプローチ

✔総論で本書のテーマ「その人らしさ」について理解を深め

✔情報収集編→実践編を通して8つの視点で「作業療法」を言語化する

なんちき
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「その人らしさ」を捉える作業療法士による面接・評価・情報収集から実践のリアルを学べる構成となっています!

 

編集:三村氏
編集:三村氏
「その人らしさ」のような主観的側面を重視した作業療法の書籍を、翻訳本ではなく現在の実践を良く知る「若手」に執筆してほしい!

この要望は、パラダイム転換期に悩みながら臨床に立っていた若手から中堅、ベテランまで多くの作業療法士の要望でもありました。

「その人らしい生活を支援したい」と思いながらも、世間の「リハビリ=機能訓練」イメージに合わせてしまい、機能訓練+αで趣味活動を支援することにとどまってはいなかったか?

一人ひとり違う対象者それぞれの「その人らしい作業」を支援するのが作業療法士であるということを、後付けでも、感覚的にでもなく、確信をもって実践したい!!

本書では、入院、施設生活、在宅場面それぞれで出会う事例の作業ストーリーを追いながら、「作業療法評価」から「その人らしさの支援(経過)」を丁寧に学ぶことができます。

その人らしさとは何か”ヒントとなる視点”

「その人らしい作業の捉えかた」

ーその人らしさの定義ー

パーソンセンタードケアを提唱したキッドウッドは、その人らしさ(personhood)という言葉(同義語や類義語を含む)について、主に超越論、倫理学、社会心理学の領域でもちいられ、それぞれの文脈で言葉の働きは異なるが、概念的に統一性のある核となる意味が存在していると述べている。

・・・つまり、その人らしさは、人と人との関係性の中ではじめて成立する概念であり、尊重し、信頼することを前提とする用語であると考えられる。したがって、対象者を「どんな人か?」という視点ではなく、麻痺の程度や認知症の有無、痛みの強さなど「どんな症状か?」という視点でみてしまうとその人らしさの尊重は困難となる

 

●ICFの個人因子からの理解がヒントになる!

●人間作業モデルからの理解がヒントになる!

 

なんちき
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OTの役割とは、その人がしたい、する必要がある、することを期待されている=その人らしい「大切な作業の実現」です!

 

【作業療法】独自の評価技法・アプローチを学ぶ

本書内では、人間作業モデルの評価、作業質問紙(OQ)や意思質問紙(VQ)等の実際の活用方法、「その人らしさ」を捉える「技」を具体的に事例を通して学ぶことができる点も特徴的です。

ボトムアップかトップダウンか

どちらか一方に偏ることなく、ボトムアップとトップダウン、双方向から支援する視点が作業療法士に求められます。

大切なことは、一般に知られていない作業療法について、「作業療法がどのような支援を行うものなのか」を作業療法士から対象者に明らかにすることです。

作業療法の説明手順(本書より抜粋)

●作業療法やリハビリテーションのイメージを聞く

●リハビリテーション関連職の中の作業療法の位置づけを説明する

●作業と健康の関連性について説明する

●作業療法は対象者と作業療法士の協働作業であることを伝える

 

ここを抜かしてしまうと、身体機能評価に偏った従来型のボトムアップ支援にとどまることになりがちであり、トップダウンとは名ばかりの、「対象者のニーズ」を一言添えるにとどまってしまう。

そして、作業療法士は作業療法ができているか否かという根本矛盾に悩むことになる。

このあたりの迷いをどのように克服し「作業」に焦点をあてた支援を確立していったのかについては、本書の執筆者の一人でもある齋藤佑樹氏の代表著書「作業で語る事例報告」にもつぶさに綴られています。

なんちき
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  作業療法士による作業に焦点をあてた作業療法の教科書が次々と出版されています!

また、本書が出版された2015年介護報酬改定は「活動と参加に資するリハビリテーション支援」実現をうたい、通所リハビリテーションにおける個別リハ(20分)加算が包括化された大転換期でもありました。

その際に、厚労省よりサービス開始時の必須評価として導入されたのが「興味・関心チェックリスト」です。

本書ではその他の興味・関心・価値観を知るための評価ツールと共に、どのような意図で用いることが望ましいかを学ぶことができます。

✔トップダウンの実際(面接技法の例)

●カナダ作業遂行測定(COPM)

●生活行為向上マネジメント

●作業選択意思決定支援ソフト(ADOC)

なんちき
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COPMは、比較的若い壮年期の対象者に意識して使用してきました。

COPMについては、筆者が臨床に出て間もなく吉川ひろみ氏により編纂・出版され、徐々に臨床で使用されるようになっていました。

入院前の1日の生活スケジュールをうかがうところからはじめるCOPMは、面接への集中と言語化能力がある程度求められるため、高齢期の対象者への使用は難しい面がありました。

そういった、対象者を選ぶ「難点」を克服する面接ツールが「ADOC」です。

【ADOC】作業選択意思決定支援ソフトの開発(2012年)

生活行為を構成するイラストから、対象者と作業療法士の双方が「必要と考える作業」を選び目標設定から計画書作成までを行える面接アプリです。

ADOC公式ページ

なんちき
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作業に焦点をあてた作業療法を!という掛け声でADOCに触れた感動のまま、個人的にiPadを購入してしまった興奮を思い出します(^^;

ただし、当時働いていた職場ではネット環境が整わず、個人のiPadを持ち込むことができず、簡易版の紙ベースで一部使用するにとどまりました。

その他本書で紹介されている注目の評価

●非構成的評価の視点

●GSES(GerneralSelf-Efficacy Scale)
一般性自己効力感尺度

●ローカス・オブ・コントロール(LOC)
自己統制感/「できる」と思う気持ちの強化とコンピテンス

☆アプローチのヒントは…「みんなのリハプラン」HPへ

【作業療法】は「大切な作業の実現」を支援する

☆2018年5月日本作業療法士協会の作業療法定義が改定されました。

再読して筆者の思い

本書を手にとったのは、2015年介護報酬改定で「活動と参加に資するリハビリテーション支援」の必要性が「上から求められた」ことに対しての「危機感」からでした。

点数化された「生活行為向上リハビリテーション」についてもしかり、作業に焦点をあてた作業療法を自分自身がもう一度見直す必要がある。

本書に助けていただきながら、2事例の報告を各所でさせていただきました。

協会的には、還元主義から作業に焦点をあてた作業療法へのパラダイム転換は、2018年5月に協会の定義が見直されたことで終着したと言えます。

また、今、作業療法を学んでいる学生さんたちは、迷うことなく新パラダイムによる実践を学んでいることと思います。

しかし現場は…東西各地、職場ごとに、必ずしもすっきりと転換しているとはいえないのではないでしょうか。

徒手的な技術についても全否定することなく上手にコラボさせながら、「作業療法士が作業療法を一番上手に担う」

あたりまえですが、自分こそがそうあるために学び、再び臨床に立ちたいとあらためて思うのでした。

 

なんちき
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本書は間違いなく、分野を問わずOT必携の一冊です!

 

次回は、認知症について最新の知識整理を作業療法士編纂の「認知症のリハビリテーション」から学び直し予定です!

以上、最後まで読んでくださりありがとうございました☆